新しい絵の会のテーマ 

「どの子にも表現する力と生きるよろこびを!!」

―21世紀の美術教育をめざして―

今年は大阪でリモートでの開催予定です。(zoomアプリを使用します)
詳しくは新しい絵の会(http://atarasiienokai21.jp)
のHPを見てください。


第101号 「美術の教室」 事務局通信

 〇新学習指導要領を審議している中央教育審議会が「まとめ」を発表しました。2030年の未来社会を想定し(少子高齢化、国内総生産の低下…)不透明な状況になることに備え、「資質・能力」(@知識・技能A思考力・判断力B学びに向かう力・人間性)を教育目標にしています。この1月に日本教育新聞社から新指導要領に関してのコメントを求められました。少し長いのですが、以下掲載された文です。創作、表現、手仕事体験を通しての育ちをどう考えているのでしょうか。本当に困ったものです。

「『弾き出されるものは何なのか…三嶋眞人』

少子高齢化を見据え、情報世界に適応し、これからの社会での生き方を模索する教育。それは今回の学習指導要領にも色濃く反映されているが、相変わらずうわ滑りな提案に映る。デジタル化される世の動きに対して「技能や思考力…」などの人間的な資質の底上げ、さらに能動的な学び方(アクティブ…)にも言及しているが、図工美術教育を研究するものとしては、なんとも歯がゆい。もう数十年前から私たちは、教育の柱を記憶の量や正確さだけではなく、創造、イメージする力が大切だと言い続けている。指導要領は、その理念や方向を人間力と言いながら一方で、教育現場にさらなるカリキュラムの詰め込みを強いている。思春期の生徒が週に一回50分の授業時間で何が表せるのか。対象と向き合い、手指を動かし、工夫し、生み出す喜びを奪っている事実を直視して欲しいのだ。授業時数の増加で何が弾き出されたのか。道徳の教科化で感性までも評価されるとしたら、芸術教科の立ち位置はどこにあるのだろう。様々な個性がぶつかり合って感性を育て、創造性豊かな社会の有り様を作りだそうと掲げるなら、絵に描いた餅にならないように、せめて義務教育での表現教科の充実を願いたい。」

 〇各地のサークル活動の支援に

5月の春の研究会は奈良で開催します。全国に絵の会のサークルがあり、それぞれの地域で、支援者の個性を活かしながら、独自な実践を展開しています。絵の会は各サークルの連合体で、どこかが指導するという活動ではありません。ですから、常にお互いの研究交流や検討が要求されています。そのために様々な講師の交流支援(=サークルや職場、数人集まれば、要求に応じて講師派遣)をします。講師の派遣費用等は本部事務局でなんとかしますので大いに利用してください。 

〇作品を持って、研究会に参加しましょう

 子どもたちの作品をどのように読み取るのか…。日常の中で生み出される様々な作品をどのように判断し、評価していますか。授業の様子を見ながら、一生懸命に創作していたとか、気持ちが乗らなかったとか、支援者の思惑とは異なった作品が出てきた…。などなど、それぞれのドラマがありますが、評価の客観性を要求されれば、どうしても見栄えや描写性に傾斜した評価になってしまいます。しかし、表現としての作品と考えれば、その読み取りの視点をしっかりと持っていたいものです。それにはたくさんの人の目で見てもらうことです。春の研究会など、絵の会の研究会には是非、教室での作品をお持ちください。                                                
                                      
(事務局長 三嶋眞人)

                      





新しい絵の会とは         

◆  新しい絵の会は、かつて「山本鼎らが提唱した自由画数育」の主張や「生活綴り方」の運動などの革新性に共感し、戦後の日本の美術教育を真に民主的に発展させようとして発足しました。
  『新しい画の会』を経て、1959年に全国組織として、子どもの現実生活を基底とした新しい美術教育の方向を開拓しようと運動が始まりました。

◆  今を生きる子ども・青年の表現を尊重し、生きる希望と学ぶ喜びを大切にしながら、未来をになう主権者にふさわしい人格や能力・豊かな感性を獲得していくことのできる美術教育をめざしています。

◆これまで人類や民族がはぐくみ育ててきた文化、とりわけすぐれた芸術の教育力に期待し、子ども・青年の表現の自由と、私たちの研究の自由の上に成り立つ、創造的な実践を大切にしています。

◆小・中・高の教師だけでなく、保育園・幼椎園・障害児・塾経営に携わる方々をはじめとして、父母・市民・学生のみなさん、さらには各分野の経験者や専門家との交流など、地域に美術教育研究の根をおろすサークル活動を展開しています。このような民間教育の研究団体が集まって、それぞれの分野で研究を深めています。神奈川県では八月に多くの民間教育研究団体が集まって研究集会を開催しています。今年は8月25日(日) 藤沢・湘南学園で開かれます。

◆毎年夏には、全国研究集会を開催しています。基調提案・記念講演の他に、分科会のレポート討議、特別講座や実技・入門講座など行ないます。 また、春・冬には会員を中心とした合宿研究会もあります。 具体的に「作品」という形に表れたものをもとに研究を進めています。

◆教師と父母のための美術教育誌『美術の教室』を発行しています。
   (誌代1,000円、 送料80円)

   また会員に向けて、新しい絵の会『会員ニュース』を年4回発行しています。 
(年会費1,000円…「美術の教室」誌含む)


新しい絵の会のことはHPhttp://atarasiienokai21.jpをご覧ください。

  
新しい絵の会の研究会、研修会、全国大会や常任委員会の討議などは上記HPをご覧ください。






美術の教室
72号

とびらの言葉


    三嶋真人
       

「生きる力」と美術・図工教育

                              
 新しい教育課程がスタートしました。その目玉は「生きる力」の育成にあると言います。「生きる力」が失われた原因を過度な詰め込み教育や、結果だけを求める学習・評価であったという点をあげ、この改訂では国際的な視野がほしいとか、表現力や個性的な能力を伸ばしたいとかを強調しています。それを「生きる力」と名付け、今ある教科の他に総合学習という新たな教科を加えようと言うのです。学校が5日制になり授業時間数が減る中で、新たな教科の増設ですから、今までの必修教科の時間数や学習内容を削っての実施ということになります。学力の定着を心配する声が出てくるのは当然でしょう。この流れの中で芸術教科や美術の授業も同様に削減されていくのです。従来から授業時数は少なかったのですが、さらに削ると、中学では週に1時間位になってしまいます。必修の授業が減れば、学校に専門の先生も少なくなるし、総合学習の内容に芸術的なものを取り入れようとしても充分な取り組みが出来るのか心配です。
 そもそも「生きる力」とは何を指しているのか。文科省の意図は分かりませんが、少なくとも自分の思いを表現し、相手の心を読みとり、理解し合っていくことは大切な視点として位置づいているでしょう。芸術や美術はそのような力を育んできたし、目的にもなっている教科です。
色と形、音…言葉が分からなくても、生活習慣を知らなくても、理解の糸口を見つけてきた人間の歴史をどう見ているのでしょうか。人と人のつながりが薄くなって、理解し合えない人間関係の中で起こる悲劇を日常的に見る昨今、芸術教育の益々の重要性を感じるのです。
自分の気持ちを相手に伝え、相手の気持ちを自分のものとする。そのような心の交流を「生きる力」と言うのなら、美術図工教育でも、思いのこもらない、投げやりな造形やお手本写しの方法論は今一度検討しなくてはならないでしょう。今回の特集を『「生きる力」と美術図工教育』としたのは私たちの実践も又、常に時代とともにありながら、「新しく」ありたいと願うからです。
                                            


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